前にも書いたと思うけれど僕はBOOK OFFが大好きで、ここ数年は専門書や雑誌以外の本を定価で買った記憶が無い。最近は文庫本の値段がやたら高くて1冊800円なんてのが当たり前だけれど、800円あるならBOOK OFFで100円の本を8冊買って読んだほうが絶対に自分の得られるものが大きいように(少なくとも今の僕は)思う。それにたまの休みに市内のBOOK OFFをぐるりと巡ってずっと探していた本を見つけたときの嬉しさというのは、ちょっと他では得がたいものなのだ。
つい先日も大学近くの1軒で前々から読みたかったSFが大量に棚に並んでいるのを発見し、小躍りしながら持ち帰って今も片端から読んでいる最中なのだが、その中でも真っ先に読み終えたのがオーソン・スコット・カードのいわゆる”エンダー・シリーズ”の2作品、「死者の代弁者」と「エンダーズ・シャドウ」である。どちらも期待を裏切らない面白さでさっそく感想をここに書きたいところなのだけれど、ともかくまずは”エンダー・シリーズ”の記念すべき1作目である傑作
「エンダーのゲーム」から紹介しよう。
オーソン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」は1985年に発表され、ヒューゴー賞、ネビュラ賞のダブルクラウンを獲得したSF長編である。もともとはカードの同名の処女短編(
「無伴奏ソナタ」に収録)だったものを長編化した作品だということだが、僕は短編「エンダーのゲーム」は残念ながら未読である。ともかく長編の簡単なあらすじはこうだ。
”昆虫型異星人バガーの2度にわたる侵略をかろうじて食い止めた地球人は、差し迫るバガーとの最終戦争を前に、人類を勝利に導く史上最高の司令官を育成するためのバトル・スクールを設立し、世界中から集めた優秀な子供たちに対して戦闘訓練(=ゲーム)を行っていた。主人公アンドルー・ウイッギン、通称エンダーもその1人であり、6歳にしてバトル・スクールに入校した彼はその飛びぬけた天才をもってあらゆるゲームで最高の成績をあげてゆく。果たしてエンダーはその名のとおり戦争を終わらせる者となれるのか…?”
SF好きならこのストーリーにハインライン
「宇宙の戦士」(1959年、1997年には
「スターシップ・トゥルーパーズ」のタイトルで映画化もされている)との共通項を見出す人も多いだろう。どちらも昆虫型(アリとクモの違いはあれど)異星人との宇宙戦争を背景に、兵士の成長過程を描いた物語であり、またエンターテイメント小説の形をとりながら作者の思想を色濃く反映した啓蒙書として読める点も同じである。カードの思想はハインラインのイケイケ愛国主義とは全く異なるけれども、それゆえにカードには自分なりの「宇宙の戦士」を描いてみたいという気持ちがあったのではないだろうか。
ついでに世界を救うために子供が戦う、という設定からは僕の世代だとどうしてもGAINAXのアニメ
「新世紀エヴァンゲリオン」が思い出されるのだけれど、これは「エヴァ」が「エンダー」を(ある程度)意識して作られたと考えて良さそうに思える。たとえばエンダーの世界では人口抑制政策により基本的に一家庭に許される子供は2人までであり、第3子であるエンダーは”サード”と呼ばれ虐められたりするのだが、「エヴァ」の主人公碇シンジはご存知”サード・チルドレン”だ。そうやって考えてゆくとシンジくんの見事なまでの駄目っぷりは、天才少年エンダーの悩みながらもすべてを独力で解決してしまう優等生っぷりへのアンチテーゼ(というか庵野監督の反発)なのかな、なんて気がしないこともない。ともかくこれは余計な話。
さて、「エンダーのゲーム」だが、子供が主人公のヒーロー物というのは老若男女、時代を問わず好まれる(みんな昔は子供だったものね)定番ストーリーの1つかと思う。それをオーソン・スコット・カードという、ストーリーテーリングが最高に巧く、さらに子供の心理を描くのも飛びぬけて巧みな作家が書いたのだから、これはもう面白くてアタリマエなのだ。
SF的小道具については現在の読者にとっては取りたてて目新しいものは無く、オチも結構間単に想像が付くんじゃないかと思うけれど、それでこの作品の面白さが失われるなんてことは少しも無い。コンピュータ技術の描写に関してはなかなかのもので、例えばバーチャル・ゲームによる戦闘は今では当たり前の概念だが、20年も前に書かれたものなのにほとんど違和感なく読めるのは凄いことだろう。またサブキャラクタとして登場するエンダーの兄ピーターと姉ヴァレンタインはどちらも子供ながらエンダーに劣らぬ天才なのだが、この2人がネットの匿名性を利用して正体を隠してコメントを発表し、世論を動かしていくくだりは現代のネット社会の一面を的確に捉えていて(彼らはいわゆる”自作自演”までやっている)非常に面白い。
反対に物足りないのは地球内での対立がずいぶん未来に設定されているはずなのにいまだ西側対東側の構図そのままに描かれているところで、この辺りはカードの想像力の限界なのか、それほど興味が無く、ストーリー展開上必要だったから書いただけなのか、あるいは当時現実に感じていた恐怖をそのまま書かずにはいられなかったからなのかはわからない。
カードはこの「エンダーのゲーム」をシリーズ化しており、続編
「死者の代弁者」で2年連続のダブルクラウンという快挙を成し遂げた。そして物語はさらに
「ゼノサイド」、
「エンダーの子どもたち」と続いてゆく。一方で「エンダーのゲーム」に登場した、エンダーに劣らぬ天才少年ビーンを主人公に据えた”裏エンダー・シリーズ”(”ビーン・シリーズ”あるいは”シャドウ・シリーズ”?)とも言うべき作品群もあって、こちらは
「エンダーズ・シャドウ」、
「シャドウ・オブ・ヘゲモン」、
「シャドウ・パペッツ」と発表されており、どうやらまだ続くようである。
ところで「エンダーのゲーム」には映画化の話が昔からあるらしい。昔から噂されているのにいまだ確実な情報ではないというのがなんだか引っかかるところかも知れないけれど、逆に言えばそれだけ映画化がファンから待ち望まれているとも言えるんじゃないだろうか。いざ映画化となったとき、「俺読んだことあるよ!めちゃくちゃ面白いよ!」と友達に言う優越感を得るためにも、未読の方は今のうちに読んでおいて損は無いですよ、本当に。
「エンダーのゲーム」 オーソン・スコット・カード(米) 1985
ヒューゴー賞、ネビュラ賞
完璧なエンターテイメント+α ★★★★★
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