実はブラッドベリの作品を手にとったのはごく最近なのである。もちろん存在はずいぶん前から知っていた。幻想派の巨匠、SFの抒情詩人などと賞され、SFの枠を超えて評価される作家であることも知っていた。
「何かが道をやってくる」とか
「ウは宇宙船のウ」とか、一度聞けば忘れられないタイトルも魅力的だった。それなのにずいぶん長い間読もうとしなかったのは、おかしな話かもしれないが、読めば絶対に気に入るという確信があったから、ではないかと思う。言い換えれば”読むまでも無く”好きであった(だからあえて読む必要がなかった)ということだ。
(こんなデンパなことを言っていて大丈夫なのか自分でもちょっとだけ不安だったりする。誰かわかってくれますこの気持ち?)
ともかく読む必要がないというのはもちろん言葉のあやであって、近頃ようやく本格的に(短編を幾つか読んだことはあった)読み始めたブラッドベリなのだが、ほーらやっぱり大好きじゃん、思ったとおり!なんて誰に向かって言っているのかわからないけれど、つまりはそういうことです。ブラッドベリは訳書が充実しているので、これからしばらくは読む本に困らないと思うと嬉しいかぎりのザムザでした。
さて、それでようやく話は作品のほうに移って、ブラッドベリ
「火星年代記」である。(これ、ハヤカワSFじゃなくてハヤカワNV(ノベルズ)から出版されているのは何故なのだろう?背表紙の作品紹介にもおもいっきりSFって書いてあるのに)
ブラッドベリの代表作の1つにしてオールタイムベストSFの常連でもあるこの作品では、1999年から2026年までの人類による火星開拓史が26篇の連作短編によって綴られる。(ちなみに2005年11月には地球で核戦争が起こることになってます)どうして宇宙服無しで火星で呼吸が出来るのか?なんてことが気になって仕方が無い人はまさか居無いとは思うが、万が一そんな人がいるならセンスが無いからSFなんか読むのはやめたほうが良い。
各短編ごとのテーマやアイデアは多彩で、それぞれかなり異なった趣きを持つものもあるのだが、逆に言えばどんな読者も必ず自分のお気に入りの1篇を見つけることが出来る、ともいえるし、だからこそこの作品は長い年月に渡ってこれほどの支持を集めているのだろう。思いつくままにコメントしてみれば、
たった1ページのはじまりの詩
「ロケットの夏」
ブラックなショートショート
「地球の人々」
前半のハイライト、傑作
「月は今でも明るいが」
火星版「木を植えた男」、
「緑の朝」
静かなる独立
「空のあなたの道へ」
すれ違いのコンタクト
「夜の邂逅」
「華氏四五一度」へと繋がる
「第二のアッシャー邸」
後半のハイライト
「火星の人」
これまたブラックでシニカルな
「沈黙の町」
寂寥感だけが残る
「長の年月」
終りにして始まり
「百万年ピクニック」
こんな感じである。ちなみに僕が特に気に入っているものを挙げるなら、哀しいロマンチシズムに溢れた
「月は今でも明るいが」、ポーやボウムの引用が嬉しい(オズマ姫!)
「第二のアッシャー邸」、それからずいぶん昔にオムニバス短編集で読んで感動した
「長の年月」あたりだろうか。いや、どれも本当に良いんだけれど。
昔の僕のようにデンパなことを言って読まないのはただただ損をしているだけなので、未読の方は迷わず手に取って下さい。ロマンチックで傷つきやすいあなたに一押しです。
「火星年代記」 レイ・ブラッドベリ(米) 1946
この世で最も美しく哀しい星 ★★★★★
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