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SF国境線(6) 「銀河鉄道の夜」

「SF国境線」連投です。

僕にとってジョバンニとカムパネルラは猫なのである。小さいときに偶然TVで観たアニメ映画の印象があまりにも強烈だったせいで、それ以降もさまざまな挿絵に飾られた「銀河鉄道の夜」を読んできたけれど、猫のイメージを消し去る程の力を持ったものにはまだお目にかかれていない。藤城清治の影絵も素晴らしいとは思うけれど、僕はやはり猫だ。

その猫を描いた漫画家、ますむらひろしの存在を知ったのは、しかしずいぶん後になってからのことであった。余談だが、少し前に友人が「アタゴオル」を借してくれて、それを読んだ僕はずいぶんと悔しい気持ちになったものだ。小学生くらいのときに出会えていれば、僕もアタゴオルの住人になってテンプラやパンツやツキミ姫と楽しく遊んで暮らせたのに…。

ともかく、今回は先日ようやく手に入れたますむらひろしの漫画「銀河鉄道の夜」の紹介です。

あまり詳しくない人に言うとときどき驚かれるのだが、「銀河鉄道の夜」はあくまで未完の作品である。それが、やはり手帳に書き付けただけのメモ書きに近い「雨ニモマケズ」と並んで宮沢賢治の代表作として知られているというのはなんだか不思議な気がするけれど、「雨ニモマケズ」はともかく「銀河鉄道の夜」には確かに特別なマジックがあるかもしれない。

「銀河鉄道の夜」の原稿の変遷についてはこちらのホームページが非常にわかりやすくて素晴らしいのでぜひ一度見ていただきたいのだが、ますむらひろしはこのうち最終形(第四次稿)のほかに初期形(第三次稿、ブルカニロ博士篇)も劇画化している。初期形の方が後に描かれたため、最終形に比べて絵の表現力が格段に上がっていて漫画としては初期形の方が面白く、(僕の心は初期形のオープニング、ジョバンニが夜道を独り走るシーンに持っていかれました)また作品に込められた賢治の思いを知るのにも初期形は非常に有益なので、2パターン収めてあるのは嬉しいかぎりだ。

漫画とはいっても賢治のテクストがほぼそのまま使用されているため、絵の多い童話というくらいの気持ちで読んだほうが良いかと思う。先のホームページのテクストとあわせて読むとさらに色々わかってGood です。

それからあとがきに書かれた作者の考察もすごく興味深い。”宮沢賢治猫嫌い説”(根拠はこちらの作品メモだそうな)というのは僕は全然知らなかった。猫は狐や鼠と並んで賢治作品ではおなじみの動物なのに…この辺に関して作者は「イーハトーブ乱入記」でさらに詳しく述べているようです。

この機会にぜひアニメをもう一度観たいと思って、昨日DVDをレンタルしてきた。なにしろ10年以上前に1度観ただけなもので、ジョバンニとカムパネルラの2人の顔以外は完全に忘れており、まっさらな気持ちで楽しめたのだが、(スミレ博士だ!とかテンプラ登場!とか予想外の楽しみもありました)クライマックスのジョバンニとカムパネルラの別れのシーンを観たとき、突然ああ、間違いなくこれを観て泣いたことがある、と確信してなんだか胸がいっぱいになってしまった。時間がゆっくりと流れる、宝石のような映画でした。

ところで何回読んでも気になるのは、あのあとジョバンニは幸せになれるのだろうか?ということなのだが、その答えはきっと宮沢賢治自身にもわからなかったのだと僕は思う。だからこそ彼は生涯を通じてこの作品を何度も書き直し、答えを求め続けたのだろう。修羅を歩いた自分は、幸せだったのか?と。

「銀河鉄道の夜」 ますむらひろし(日) 1983
猫の目がいざなう銀河鉄道の旅 ★★★★

銀河鉄道の夜
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by k_g_zamuza | 2005-12-15 14:22 | SF的生活


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