いや、全然SFではないのですが、珍しくタイムリーな本の話が出来るチャンスなので…。強いて言えば”80分しか記憶が持たない”という設定とか、随所にちりばめられた数学ネタあたりから微妙にSFのかほりがしないことも無いかと…まあ大目に見てやって下さい(笑)
というわけで、来月の
映画公開を首を長くして待たれている方も多いかと思われる、第一回本屋大賞受賞作、小川洋子
「博士の愛した数式」です。
こういう本はあまり自分で買って読んだりはしない(少なくともブームの真っ只中に買うことはまず無い)のだけれど、昨日久しぶりに会った父親がたまたま持っていたので借りて読んだ。1時間くらいで一気に読んだということは、相当に面白かったということだ。
(ちなみに僕の父は高校で数学を教えるヒトだったのでした。なぜか息子は数学センス皆無なのだが…おかしいなぁ)
17年前の交通事故のせいで80分しか記憶が持続しなくなってしまった老数学者「博士」と、シングルマザーの家政婦「私」、そしてその息子である10歳の少年「ルート」(頭の形が√に似てるんだってさ)の心の交流を描いたこの作品は、いわゆる”いい話”なのだけれど仕立てがすごく洒落ていて、読者を一気に引き込んでくれる。
記憶障害と数論、そして阪神タイガース(!)の間を軽やかに飛び回って紡いでみせた小川洋子の数式はとても美しいのだけれど、巧みすぎてなんだかどこかでズルをされたような気がしないこともない。(数式というよりは手品かな)いや、でもこれはこれで良いのでしょう。どんなに数学が苦手な人が読んでも数学って面白そうだな、ときっと思えるはずで、それだけでも読む価値は大いにあると思います。
ところで記憶を持てない「博士」が他人と交流するために独自に編み出した方法として、相手の靴のサイズや電話番号を尋ね、その数字にたちどころに意味を与えてしまう、という面白い描写があって、たとえば「私」の電話番号に対しては
「5761455だって?素晴らしいじゃないか。1億までの間に存在する素数の個数に等しいとは」
とこうなのだが、(本当かね?)これはインドの天才数学者ラマヌジャンの有名な逸話を意識しているのかなと思った。友人が乗った車のナンバープレートが「1729」だった、という話を聴いて「それは2通りの立方数の和で書ける最小の数だ(1729=1^3+12^3=9^3+10^3)」と即座に指摘したというラマヌジャン。こういう特殊な能力を持つ人と一度話をしてみたいものです。
最後におまけとして、数学の魅力にとっても手軽に触れられる最高の本を紹介します。森毅の軽快な文章に安野光雅が美しいイラストをつけた
「すうがく博物誌」、これは面白いですよ。
「博士の愛した数式」 小川洋子(日) 2003
阪神ファンにはオトクです ★★★
小川 洋子
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