ちょっと前にペルーのアマゾンで奇病が発生したという
ニュースを見た。どんなに医学が進んでも未知の病気は次から次へと現れる。そういえば薬剤師国家試験の勉強をしていたときも、過去問には載っていない(当たり前だ)SARSから出題される可能性があるから気をつけろ、と注意された記憶があるなぁ。
さて、こういうニュースを聞くと僕は必ず思い出す本があって、それが今日の話題。エボラ出血熱の恐怖を描いて大ベストセラーとなったリチャード・プレストンのノンフィクション
「ホット・ゾーン」です。確か中学生くらいのときに読んだのだけれど、ものすごい衝撃を受けてその後しばらくウイルス関係の本を読み漁っていた時期がありました。
この本、とにかく怖い。僕が持っているハードカバー上下の背表紙にはスティーブン・キングとアーサー・C・クラークの献辞が載せられているのだが、両者とも「これまで読んだ中で最も怖かった」と書いているのは、たぶん嘘じゃないと思う。
第一部の冒頭、”森の中に何かがいる”がまず衝撃的である。1980年にマールブルグ・ウイルス(エボラの親戚ようなウイルス)に感染したフランス人の話なのだが、ジャーナリストであるプレストンの極めて冷静な筆が悪意無くヒトを殺すウイルスの姿を見事に描き出しており、初っ端からいきなり怖すぎる。これを読んでしまったら、読者には加速する恐怖に震えながらラストまで一気に読み通すか、あるいは本を閉じて二度と手を触れないかのどちらかしか選択支は無いだろう。作中でエボラ・ウイルスの名付け親カール・ジョンスンにプレストンが質問する場面があって、「ウイルスは美しいと思うか」という問いに、「そう思う」と答えたジョンスンの言葉がすべてを表している。
「コブラの眼を覗き込むとき、恐怖とは別に、何かしら引きこまれるものを感じるというのは、本当じゃないだろうか?電子顕微鏡でエボラを見ていると、華麗な氷の城を見ているような心持ちになるんだな。実に冷ややかで、それでいて純粋なのさ」
そして本書の後、プレストンはエボラよりさらに凄まじい架空のウイルスを扱った小説
「コブラの眼」を書くのだが、その話はまた今度。
ところでしばらくぶりに読み返して、エボラについて現在どの程度まで研究が進んでいるのか気になった。
PubMed で文献検索してみたところ、最近もNature やScience といった一流誌にエボラに関する論文が掲載されている。 ただ、例えば最も致死率の高いエボラ・ザイールと良く似たエボラ・レストンがヒトに無害なのは何故か?なんていう部分の分子機構はまだまだ解っていないようだ。まあ実験するのも命がけだから仕方無いのかもしれない。普段から自分に注射針を刺しまくりの僕は必ず感染すること請け合いです(汗)
もう一つ。「エンヴィロケム」という消毒液がエボラ・ウイルスにも有効だということで、作中でも頻繁に登場するのだが、これ、どんな物質なのか情報がまるで無い。(色は緑茶みたいな色らしい…)ひょっとして誰かが機密にしていたりするのだろうか?誰か知りませんか?
「ホット・ゾーン」 リチャード・プレストン(米) 1994
”第二の天使が鉢を海の上に傾けると、海は死者の血のようになった” ★★★★★
リチャード プレストン Richard M. Preston 高見 浩
小学館
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