私の愛したSF(23) 「鼠と竜のゲーム」

人並みはずれて数奇な運命を辿り、その合間に正体を隠してSFを書いた博士、といえばティプトリーだが、実は良く似た経歴を持つ人物がもう一人居ることを知った。今回紹介する「鼠と竜のゲーム」の作者、コードウェイナー・スミスである。

コードウェイナー・スミス、本名ポール・ラインバーガー。1913年生。父親がかの孫文の法律顧問であった縁で、孫文その人から「林白楽」という中国名を貰っている。成長期に各国を渡り歩き、日本や中国の文化にも造詣が深い。ジョンズ・ホプキンズ大学教授として政治学を教え、その一方で軍人でもあり、第2次大戦時には中国で情報部員として活動し、その経験を「心理戦争」という専門的な本にまとめた。その他多くの筆名による著作多数。詳細はウィキペディアに丁寧に書いてあったのでそちらでどうぞ。

さて、「鼠と竜のゲーム」は「人類補完機構シリーズ」(どこかで聞いたような名前だが、もちろんこちらが本家)と呼ばれるスミスの一連のSF作品群の最初のものにあたる短編集で、シリーズは以下長編「ノーストリリア」、短編集「シェイヨルという名の星」「第81Q戦争」と続く。各作品はおよそ1万5千年という長大な宇宙史の断片的スケッチとして描かれており、読者はスミスの巨大な宇宙のほんの一部を垣間見ることしか許されないのだが、そのイメージのユニークさは全く尋常ではない。尋常ではないけれど、その世界はスミスの卓越した筆により、たしかに実在するとしか思えない重みを持って読者を圧倒する。いつものように収録された8篇から特に気に入った4篇についてコメントを書きます。

「鼠と竜のゲーム」
これぞまさしくキング・オブ・猫SF。(にゃんだそれは?)読んだ後は猫しか愛せなくなる危険性があるので要注意。しかし決して単なる猫萌えSFに終わらないあたり、天才だなこの人としみじみ思う。

「スズダル中佐の犯罪と栄光」
<猫の国>なんていうアイデアはほとんどおとぎ話のよう、時間歪曲ネタの扱いもいかにもイージーだが、あるいはそれも計算ずくなのかもしれない。”ここには真実はかけらもない”のだから。

「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」
サンタクララ薬という不老長寿薬の製造により、銀河系一裕福な惑星オールド・ノース・オーストラリア(ノーストリリア)。その鉄壁の防御機構がママ・ヒットンのかわゆいキットンたち。あまりにも”かわゆすぎて”精神崩壊します。

「アルファ・ラルファ大通り」
ここに描かれた<人類の再発見>のイメージときたらどうだ。「風の谷のナウシカ」だってかなわないんじゃないか。シリーズ最大のヒロインにしてSF界一の萌えキャラ(笑)猫娘ク・メルも登場する、まごうことなき傑作!

椎名誠がダン・シモンズ「ハイペリオン」を評して、ひとりの人間がこんなすごい世界を考えることが出来るということに驚く、というようなことを言っていたと思う。僕は実は「ハイペリオン」は積読状態なのだけれど、全く同じ言葉をコードウェイナー・スミスに捧げたい。ミャオウ!

「鼠と竜のゲーム」 コードウェイナー・スミス(米) 1950-1961 (1975 に短編集編纂)
博士の愛したSF ★★★★

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by k_g_zamuza | 2006-01-26 13:30 | SF的生活


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