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私の愛したSF(28) 「かめくん」

本当はいつも誰かに訊いて欲しくてうずうずしているのに、なかなか訊いてもらえない質問がある。

「最近面白かった本は?」

これだ。26歳にもなるとたいていの人はこういう子供っぽい話題にはなかなか付き合ってくれなくなるようで、僕としては寂しい限りなのだが、2ヶ月ほど前、久しぶりに話した友人から、ちょっと予想もしないタイミングでこの質問が飛び出した。あまりに唐突だったのでけっこう驚いたのだけれど、そんなそばから頭の中では勝手にカラカラと検索が始まって、このひとに薦めるならアレとコレと…なんて考えている自分がいて、なんだかすごく可笑しかった。

そのときは結局5、6冊を薦めてみたのだけれど、その中に1冊くらい毛色の変わったものも、と思って入れたのが今回の作品、北野勇作「かめくん」である。ちなみにタイトルがあまりに面白かったらしく、あとでずいぶん笑われたのだけれど、幾ら笑ってくれても結構、誰が何と言おうとこれは希代の名作なのだ。

というわけで、これから「かめくん」がいかに優れたSFかを書いていきたいところなのだけれど、こうやっていざ書こうとすると困ったことに言葉がぜんぜん出てこない。たとえば構造が椎名誠のSFに似ているとか、「ドラえもん」だとか、「ヨコハマ買い出し紀行」だとか、いやむしろ「かんがえるカエルくん」だとか、そういうことを言ってみてもあまり面白くはないだろう。癒し系とかほのぼの系だなんて言葉を安易に使いたくもない。そんなカテゴライズはもったいない。だからといって、仰々しく持ち上げたいかと言われるとそうでもない。日本SF大賞受賞なんて肩書きばかりに気をとられていると大事なことを見落としてしまいそうだ。

「かめくんはかめくんであってかめくんでしかないのだから」

なんていう作中の言葉をつかまえて分かった様なふりをしたくもない。(そもそもこんな書き方は反則すれすれだろう)かめくんがモノレールに乗って僕が住んでいるところまで通ってきていることを書いてみても何も始まらない。なんというか、そういう一切の説明を拒否するようなところで成立している作品なのだ、これは。

仕方が無いので僕はとりあえず黙って本を渡すことにしている。読まなければわからないし、読めばもうそれで良い。そういう本があったって良いだろう。自分がほんもののカメではないことを知っていて、どこにも所属していないことを知っていて、リストラされて職を探してまた働いて、ときどき好きなリンゴを食べたり誰かに憧れたり本を読んだり映画を観たり、何かに巻き込まれたり戦ったり猫を可愛がったり、学んだり忘れたりまた思い出したり、そうやってやってきて、また去ってゆく。それが「かめくん」。それだけのことなのだ。

「かめくん」 北野勇作(日) 2001
日本SF大賞

うまいうまいうまいうまいうまいうまい ★★★★

かめくん
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by k_g_zamuza | 2007-02-02 12:55 | SF的生活


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