Book to Film (4) 「鼠たちの戦争」/「スターリングラード」

戦争モノの魅力ってなんだろうか。よくわからないけれど、小説にしろ映画にしろ、戦争を題材にした作品はフィクション、ノンフィクションを問わず古今東西星の数ほどあって、傑作と呼ばれる作品も実に多い。僕も好きなものを挙げろと言われれば10コくらいはすらすらと思いつくけれど、その中でも常にマイランキングの上位にあるのがロビンズの小説「鼠たちの戦争」なのだ。

独ソ戦の大きな転機となった史上最大の市街戦、スターリングラード攻防戦を舞台に、ソヴィエト側のスーパースナイパーとドイツ側のスーパースナイパーによる狙撃兵同士の一騎打ちを描いたこの作品、なんと史実に基づくというからすごいのである。

主人公ヴァシリ(小説ではワシーリィ)・ザイツェフはレーニン勲章まで受章した実在のソ連の英雄で、さっき調べたらウィキペディアに写真入りで載っているのに気がついた。大型のライフルを構え、ちょっと困ったような笑いを浮かべるザイツェフは、このとき今の僕と同じ年齢のはずで、写真ではごくあたりまえの青年に見える。本文中には257人の敵兵を殺害、とあるけれど、残念ながらその数字の持つ意味が僕にはまったくイメージが出来ない。(257匹のマウスなら僕も殺したと思うけれど)本当はどんな人だったんだろうか。

小説ではシベリア出身の元猟師で、その天才的な狙撃技術によりスターリングラードの生ける伝説となった若き曹長「兎」ことザイツェフと、打倒ザイツェフの切り札としてドイツから送り込まれた狙撃学校の「校長」ハインツ・トルヴァルト大佐の息詰まる決闘を中心に、熾烈を極めた市街戦の有様がソヴィエト、ドイツ両軍の兵士の視点で交互に語られてゆく。銃弾が雨あられのように飛び交うのかと思いきや、これはあくまでも狙撃兵の戦い、1発の銃弾が発射され、1人の人間が倒れる、その間に交わされたかけひき、策略、心理戦の様子が、ときに何十ページにもわたって丹念に描かれる。それが退屈かといえばそんなことは全く無くて、あたかも自分がその戦場にいて、見えない敵の十字線から逃れるべく、瓦礫の影に必死で身を縮め、息を殺してあたりを伺っているような気分にさせられるから、これはなかなか大した筆力だと思う。(筆者のロビンズはこの作品の後も戦争モノを何作か書いているようだけれど、その精緻な描写力は確かに戦争を描くのに向いているような気がする)クライマックスの対決シーンは何度読んでもスリリングで、僕はつい何度も読み返してしまう。

さて、映画「スターリングラード」は、正確には「鼠たちの戦争」を原作にしたわけではなく、同じ史実を元に映画化したものだったと思うけれど、このくらいの距離感が小説と映画、お互いを邪魔せずに楽しめてちょうど良いような気もする。ヴァシリを演じるジュード・ロウはちょっとスマートすぎ、若々しすぎで小説のザイツェフのイメージとはだいぶ違うし、そもそも全然ロシア人に見えなかったのだけれど、突然戦場に駆り出された田舎育ちの素朴な青年が、その射撃の才を見出され、英雄に祭り上げられてゆく、というストーリーには合っているとも思った。対するケーニッヒ少佐役のエド・ハリスも臆病者の「校長」トルヴァルトとはやはりイメージが違ったけれど、こちらは風格漂うナチの将校を見事に演じており、すごく魅力的だ。

ストーリーは、もちろん大まかな流れは小説と同じなのだが、シリアスな戦闘描写の隙間にいささか場違いな感のあるヴァシリ、ターニャ、ダニロフの三角関係が押し込められており、ラストも安直なハッピーエンドになっていて、それがいささか勿体無い気がする。のだけれど、なんというか(この辺は感じ方が大きくわかれるところだと思うけれど)「娯楽映画なんだからその辺は割り切ろうぜ」的な雰囲気があって、僕は不思議とまあこれで良いかという気にさせられた。だから観終わった後の印象は決して悪くなく、うん、面白かったな、と素直に思ったのだ。特別話題になった映画ではないと思うけれど、これが意外と良いんだよね、ちょっと観てみたら、と言いたくなる作品かもしれない。

ところでどうでも良いかもしれないけれど、劇中のザイツェフとターニャのラヴシーンがなんだかやたらとエロティックでドキドキしてしまったのだが、この辺はさすがフランス人監督ということなのか、よかったら誰か教えてください。

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by k_g_zamuza | 2007-01-24 16:00 | Book to Film


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