Book to Film (3) 「ティファニーで朝食を」

世の男どもというのは、他人に話すと笑われてしまいそうで、普段はこっそり隠しているけれど、本当はいつまでも大切にとっておきたい思い出を、きっと幾つも抱えているのだ。スタンド・バイ・ミーの友人がそうであり、自分だけのホリー・ゴライトリーもまた、そうだ。

小説「ティファニーで朝食を」の主人公はカポーティ自身と思しき作家、その彼のところに、昔なじみだった飲み屋の老主人から電話がかかってくるところから物語は始まる。それだけでもう、ホリーの話だな、とピンと来ている。もう何年も会っておらず、どこで何をしているのかもわからない。なのに、どうにも忘れがたい女なのだ。もう一度会ってみたいような気もするけれど、それよりもこうして彼女に振り回された男同士、ときどき噂話を交換しては、あとはそれぞれ好き勝手に思い出に浸りたい、ホリー・ゴライトリーとはそういう女なのだ。

「あなたは間違っていますよ。あの女はくわせ者(phony)ですぞ。しかし、あなたが正しいともいえますな。あれはくわせ者じゃないです。というのは、あの娘は本物のくわせ者だからですよ」

上はホリーの取り巻きの1人、O.J.のセリフだが、ちょっと面白いのはかのライ麦畑のホールデン少年の口癖が、やはりインチキ(phony)だったことである。ホールデンがphony だと罵り、懸命に否定しようとした側の人間であるO.J.が、ホリーを「本物の」phony だと言うとき、そこにはphony な世界に組み込まれてしまったかつてのホールデンがちらりと顔を見せている。

小説の解説では「プレイガール・ホリー」という人物像についてばかりぐだぐだと書いてあるけれど、そんな読み方ははっきりいってまったく面白くない。大切なのは何故ホリーが無軌道な生活を選ぶか、ではなく、何故そんなホリーに主人公が惹かれるか、ではないのか。本物の贋もの、壊れもの、傷もの、そういうものの方が、ただの本物よりもずっと魅力的にみえることがある。そういうものにばかり惹かれてしまう人がいる。大抵は男だ。カポーティ自身が、きっとそうだった。

さて、「Book to Film」ということで、映画「ティファニーで朝食を」の方にも触れなければならないのだけれど、正直に言って映画に関してはあまり書くべきことがない。たしかにカポーティの小説とは別物かもしれないが、「オードリーの映画」としてカンペキで、その愛らしさにただただ降参するばかりなのである。天才の感性も、真に美しい女性の前では無力か、なんて。

これで終わるのも寂しいので、1つだけ蛇足を。ホリーのアパートの最上階に住む日本人写真家ユニオシさん、映画ではミッキー・ルーニーがかなり偏った日本人のイメージで演じていてこれがなかなか面白いのだけれど、ユニオシなんて苗字、聞いた事も無い。それで思いつくのは村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」に登場したユミヨシさんなのだけれど、ユニオシさんを想像しながらユミヨシさんのくだりを読むのは、これはいささか興ざめだと思うのだが、いかが。

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by k_g_zamuza | 2007-01-23 14:29 | Book to Film


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