私の愛したSF(4) 「アド・バード」

椎名誠といえば一般的には「怪しい探検隊」とか「哀愁の町に霧が降るのだ」のような旅行記、エッセイを得意とする作家のイメージが強いと思うのだけれど、実は彼は筋金入りのSF中毒にして、国内有数のSF作家でもある。とにかく数多い彼の著作の中に、SF三部作と呼ばれる作品があって、すなわち「アド・バード」「水域」「武装島田倉庫」の3タイトルがそうなのだが、今回はその中でも日本SF大賞を受賞し、著者自身の思い入れも最も強いという「アド・バード」を紹介したい。

三部作の舞台設定はどれも共通していて、カタストロフィ後、荒廃し異形生物と暴走する機械が蔓延るようになった黄昏の近未来である。これはブライアン・オールディス「地球の長い午後」をSFのひとつの理想形として掲げている作者にとっては必然の設定なのだと思うが、もちろんただのコピーなどではなく、それぞれの作品で彼にしか造りえなかった世界(シーナ・ワールド)を提示してみせているのはさすがである。

「アド・バード」の世界では、カタストロフィの原因は核戦争ならぬ広告戦争(!)である。(アド・バードのアドはアドバタイズメントのアド)ストーリーはごくシンプルで、マサルと菊丸の兄弟が行方不明の父親を探しに冒険の旅に出かける、というものだが、一度読み出したら最後、少しずつ明らかになる驚異的な世界の姿に、読者はいつのまにか主人公マサルと同じ視点で驚き、憂い、感動させられることになるだろう。全篇を通して濃い闇に沈んだ世界で、それでも確実に前へと進む若い力が光るラストは本当に美しい。個人的にももっと多くの人に知って貰いたいと思う傑作である。そしてもしこの世界が気に入ったら、ぜひ「水域」「武装島田倉庫」も読んで欲しい。絶対に損はしないことを保障する。(僕が今一番好きなのは「武装島田倉庫」)

ところで椎名誠はこの3部作発表以降、長編SFは書いていないのだけれど、他のエッセイの中でこんなことを言っている。曰く、

「僕の作品のジャンルの一つにいわゆる超常小説と呼ばれるものがあるが、これは書くのにものすごいエネルギーと集中力を必要とするジャンルでもある。その中でも『武装島田倉庫』や『アド・バード』といった一連の作品は、特にきつい。そのわりにこのジャンルは読者が少なく、非常に効率の悪い作業ともいえる…」

確かになじみの仲間とちょっとキャンプして酒飲んで騒いでそれをテキトーに書き飛ばしたエッセイ(失礼!)のほうが、思い入れも時間もたっぷり注ぎ込んだSFより売れる、となるとこれは作家としてはもう馬鹿らしくなってわわわ、ぼく俺わしもう駄目…なんてことになるのは仕方のないことかも知れないけれど、「アド・バード」に心を鷲掴みにされた、シーナSFの大ファンである僕としては、ファイトでぇす、シーナさんファイトでぇす!と叫ばずには居られないのだ。

「アド・バード」 椎名誠(日) 1990
日本SF大賞

プロレス作家はシュートも強かった ★★★★★

アド・バード
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by k_g_zamuza | 2005-09-08 21:07 | SF的生活


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