後輩が「面白いっすよ~」と貸してくれたDVDを観た。NHKのアニメ
「プラネテス」である。振れ幅の大きいキャラクター達や後半ちょっと詰め込み過ぎの感のある展開にやや戸惑いつつも、トータルでは十分に楽しめた。その後原作である幸村誠の漫画
「プラネテス」を同じ後輩に借りて読んだのだが、これがアニメから期待したものをはるかに凌ぐ面白さにびっくり&大満足。というわけで今回は漫画の「プラネテス」の話をしたい。
時は西暦2074年、主人公ハチマキは宇宙開発により生じた宇宙のゴミ=デブリの処理業者、通称デブリ屋である。そんな彼が人類初の木星往還船の乗組員を目指す話を大きな軸として、生きること、理想を追うこと、愛すること、といった普遍的テーマを追いかけたストーリー。作者の幸村誠はこの作品がデビュー作ということだが、見事な構成力と表現力を備えており、星雲賞受賞にも十分に納得がゆく。でもそんなことはどうでもよくて、とにかく作者のSFマインドが、自分はこれが好きだ、という気持ちをこれでもかとばかりにぶちまけた世界が、もう堪らないのである。
SFファンなどという夢見がちでおっちょこちょいな人種は大体宮沢賢治には強く惹かれるものだが、幸村誠も賢治への思い入れは相当なもののようで、第2巻では賢治作品の中でもかなりマイナーな詩
「サキノハカといふ黒い花といっしょに」を引用、また第4巻では同じく詩作「小岩井牧場」のパート九より抜粋して引用し、「グスコーブドリの伝記」(偶然にも先日紹介したばかりだ)をモチーフにした話も描いている。
(もっとも第4巻PHASE18「グスコーブドリのように」はイマイチ焦点が定まらなく、すっきりしない話になってしまっている。ヤマガタもロック・スミスもグスコーブドリの理想からは程遠い。作者がそれに気づかないはずは無いのだが)
それから個人的には第3巻でタナベの父親が口ずさむ歌がTHE BLUE HEARTS の
「夕暮れ」と「ながれもの」というのがまたツボで、甲本ヒロトの世界と宮沢賢治の世界には共通する部分が少なからずあるとずっと思っていた自分としては、ようやく同じことを感じているヒトにめぐり合えた気がしてそれだけで嬉しくて仕方が無い。あまりに嬉しいので無茶を承知で「夕暮れ」の歌詞を以下に載せる。思えば作品にはぴったりの歌詞と思うがどうか。
「夕暮れ」 甲本ヒロト
はっきりさせなくてもいい
あやふやなまんまでいい
僕達はなんとなく幸せになるんだ
何年たってもいい 遠く離れてもいい
独りぼっちじゃないぜ ウインクするぜ
夕暮れが僕のドアをノックする頃に
あなたをギュッと抱きたくなってる
ええと、ともかく漫画「プラネテス」は普通の漫画としてもSFとして読んでも面白い。ちょっとマニアックな人間向けの仕掛けも散りばめてあり、誰が読んでもそれぞれに楽しめる作品ではないだろうか。アニメはアニメでかなり大きく設定も変えてあり、それはそれで十分に面白いのだけれど僕としては冒頭で述べたようにどうにも詰め込み過ぎで消化不良の感が否めなかった。(クレアのエピソードなんかは不必要では?)僕は断然原作をオススメします。
「プラネテス」 幸村誠(日) 2001-2004(全4冊)
星雲賞
愛することはやめられない ★★★