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私の愛したSF(18) 「十五少年漂流記」

「蝿の王」を紹介したからにはこちらに触れないわけにはいかないだろう。全世界の少年少女のバイブル、ジュール・ヴェルヌ「十五少年漂流記」である。SFの父ヴェルヌに敬意を表し、こちらはやはり「愛したSF」で扱いたい。

ヴェルヌ!ヴェルヌ!ヴェルヌ!ヴェルヌがなければ現在の僕も無いときっぱりと言い切れる。もちろんそう呼べる作家はヴェルヌだけでは無いけれど、少なくとも今僕がおぼつかない足取りながらも科学の道を歩いているのは、ヴェルヌとファーブルが居たからこそだと思っている。同じように感じている人は僕の前にも無数にいただろうし、これからも増え続けることだろう、子供達が本を読み続けるかぎりは。(それともポケモンやムシキングから科学に興味を持つようになったりするのだろうか?)

「十五少年漂流記」は言わずと知れたジュブナイルSF(もっともヴェルヌ自身は特に子供向けを意識して書いたわけでは無いと思う)の傑作である。Amazon で検索したところどうやら26もの異なる日本語版が手に入るようだが、僕が子供の頃に愛読していたのは講談社の少年少女世界文学館全24巻のうちの1冊であった。(ちなみに今手元にあるのは上のリンクの創元SF文庫版)このシリーズの優れたところは、作中に登場する道具や動植物(”羅針盤”とか”リャマ”とか”さとうかえで”とか)のイラスト付き解説が豊富に載せられている点、それから子供には難しいと思われる言葉に赤字のルビで説明書きが入っている点で、要するに名作文学に図鑑と国語辞典がセットになっているのだ。「ロビン=フッドの冒険」「ロビンソン漂流記」「トム=ソーヤーの冒険」、僕はどれもこのシリーズで読み、がらくたを集めるカラスのように知識をせっせと蓄えた。実に幸せな日々だった。

その膨大な博物知識と卓越した科学予測能力ばかりがクローズ・アップされて語られることが多いヴェルヌだが、ストーリー・テラーとしての彼の能力もまた一級品である。(嘘だと思うなら「アドリア海の復讐」あたりを読めば良い)「十五少年漂流記」においてもその筆力は冴え渡り、ジェットコースターのような2年間が息つく間も無く過ぎてゆく。嵐の船上、未知の島、人の痕跡、協力と対立、ジャックの秘密、そして海賊達…あらゆる探検とあらゆる冒険の魅力の本質がここにはある。

1つ気になることとして、島の大統領を選ぶ場面、黒人のモコには選挙権が無い、という文章に過剰に反応している方がときどき見受けられるが、これは決してヴェルヌが黒人差別を当然のものと考えていたことを表すわけではない。でなければモコがあれほどの大活躍をするわけが無いし、「ミステリアス・アイランド」ではヴェルヌはリンカーンの思想に惜しみない賞賛の声をあげている。むしろほとんど女性が出てこないことを残念がるべきだが、100年以上も昔に書かれた物語に現代の価値観全てを望むのは酷というものだろう。

僕がいまさら必読!なんて叫ぶ必要も無いとは思うけれど、大人が読んだって面白いものは面白い。「蝿の王」と併せて読めば、また色々な味わいを発見できること請け合いです。

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あの懐かしいフレンチ・デンへ! ★★★★★

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by k_g_zamuza | 2005-11-30 14:10 | SF的生活


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